お皿の上で腕をスケールで縛られてる
「正しい手順で断食をすると、痩せて健康になる」、世の中にはそんなテーマの本がたくさん並んでいます。でもこれって、本当なんでしょうか? 13年前から断食をはじめとする様々なダイエットを繰り返してきたライターが、「食べないダイエット」の本当の恐怖について解説します。
坂野 りんこ

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坂野 りんこ

こんにちは、頑張っていない方のアラフォー先輩こと坂野りんこです。
産後に激太りした後、糖質制限で-8.3kgのダイエットに成功した私ですが、その前にも色々なダイエットに挑戦し、失敗し続けた経験があります。

中でも断食には傾倒し、様々な種類のものを試しました。
7日間の本断食、3日間の半断食、生姜紅茶やニンジンりんごジュースを使ったファスティング、そして1日おきに絶食する間欠断食……。
手っ取り早く痩せたいなら、食べなければいい。そう思っていた時代が、私にもあったのです。

結論から言うと、どれも効果は大したことがなく、ダメージだけが残りました
具体的に何をして、私の体に何が起こったのか。見ていきましょう。
 

私の断食体験

野外フェスで朝霧牛乳を飲む坂野りんこ
↑断食にハマっていた頃の私。

私が初めて断食をしたのは、2005年頃のこと。

会うたびに金をせびるヒモのような男と「別れる」「別れない」といったくだらない愁嘆場を演じていた私は、軽い鬱状態にありました。
そんなときに当のヒモ男が断食にハマりだしたのです。
断食をやると、体が軽くなり、精神的にとてもハイになるらしい」といって。

興味を持った私はそこから色々と調べて、以下のような断食を実践してみました。
 

7日間の本断食

【本断食の作法】
断食といっても、1週間まったく何も食べないわけではありません。
①準備食(2日)→②絶食(3日)→③回復食(2日)のサイクルでゆるやかに食事を減らし、そして普通の食事に戻していきます。
これをやらないと、わかりやすくリバウンドするそうです。
 

⦁準備食(2日)

最初はお粥からスタート。それを食事のたびにだんだんと薄くしていき、最後にはすまし汁や糊のようなお粥などの流動食にして絶食に備えます。
 

⦁絶食(3日)

3日間、固形物は口にしません。ただし塩分補給のために梅干しだけはOKにしていました。飲み物は水、そしてたんぱく質補給のために豆乳も可に。酵素ジュースなどを飲む人も。
 

⦁回復食(2日)

また2日かけて固形物に慣らしていきます。重湯から十倍粥、7倍粥、といった具合に。
豆腐など副菜も少しずつ増やしていきます。
 

【断食中に起こったこと】

固形物を口にしない絶食期は本当に辛く、何も考えられませんでした。思考力が極端に落ち、仕事の効率がかなり悪くなりました。本を読むことも辛く、なぜか絵を描くことができなくなり、ひたすら寝ていた記憶があります。
それから3日目に急に体が軽くなり、頭が冴えて「いくらでも食べずにいられる!」みたいな気持ちに。これは実に爽快な体験でした。
でもこれ「断食ハイ」といい、後で述べますがあんまりいい状況じゃないみたいです。

断食後の回復食の美味しさは、目が覚めるほど感動的でした。味覚がリセットされたせいです。
興味深いことに、それまでそんなに好きでもなかったじゃがいもやかぼちゃが、回復食のときだけ異様に美味しく感じました。すぐにまた苦手になりましたが。

初回の断食の印象があまりにも鮮烈で、この体験をしたいがためにその後何度も断食を繰り返すことになりました。

 

【体重の減少】

絶食中はそんなに体重の変化はなかったんですが、回復食中にぐんぐんと体重が落ちました。でも全体で-3~4kg程度の体重減少にとどまっていたと思います。

当時、健康なときの体重が47~8kg/160cm。そもそも元が軽かったので、減り幅も少なかったわけです。49kgになったので太ったと慌てて断食をし、45kg台になってダイエットできたと喜んでいました。アラフォーになった今思うと実に傲慢ですが、当時は本気で自分をデブだと思い込んでいました。

体重は減りましたが、美しく痩せることはできていなかったと思います。筋肉が落ちたせいでくびれがなくなり、体重は減ってもウエストは太いまんまでした。体脂肪率はむしろ増え、そして口の周りにみっともないシワができました。アラフォーの今ですらないような、口を閉じてもできるくっきりとした深い表情皺です。肌の弾力がなくなったせいだと思います。顔色は悪く、いつもどこかに吹き出物ができていました。

体重減少した時期の坂野りんこ
↑こまかいシワが増え、肌荒れが酷かった頃。

ちなみにヒモ男との愁嘆場を続けた結果、心労で激痩せし半年後に40kgを切りそうになるまで体重が減少したのですが、断食とは関係ないので割愛。
この頃が人生で一番体重が軽い時期でした。
海辺にいる痩せている坂野りんこ
↑この頃で体重42kgくらい。
 

【その後起こったこと】

頻繁に体調を崩すようになりました。特に目眩無気力には悩まされました。
ずっと頭に霞がかかっているような感覚。あまりにも辛いときになぜか思い立って牛乳を飲んだところ、劇的に改善したように感じたことがあります。典型的な鉄分不足、たんぱく不足だったと、今は思います。

そして、ちょっとしたことで太りやすくなりました。
10代まで新体操をしていた私は、何を食べてもお腹がポッコリしないのが自慢でした。体にぴったりした服を着た友達が、「お腹が出るといけないから今日は朝ごはんを抜いてきた」というのが不思議でならなかったのです。
「ちょっと太っては断食」を繰り返していたある日、鏡を見て「ああ、これか」と納得しました。人は筋肉が落ちると、どんなに痩せてもぺたんこのお腹を維持できなくなるのです。人生で一番痩せていた時代の私のお腹は、いつも食事を摂ると食べた分だけポッコリしていました。
 

その他の断食

断食のせいで不調なのではなく、失恋による一時的な気持ちの落ち込みのせいだと決めつけた私は、断食中のハイと一時的な体重減少を求めて頻繁に断食をするようになりました。種類は様々ですが、いろんな本を読んではあらゆるものを試していたように思います。
 

・半断食

準備食(1日)→絶食(1日)→回復食(1日)。
体重の減少は-2kgほど。
期間が短い分辛さはそうでもないです。
 

・ジュースを使ったファスティング

週末だけ生姜紅茶を飲んで過ごす、というものと、ニンジンりんごジュースを飲んで過ごす、というもの。また、48時間ジュースを飲むファスティングもやってみました。
どれも効果は一時的と言わざるを得ませんでした。


 

・間欠断食

1日おきに絶食するというもの。
22日間継続してやってみたんですが、累計で-2.6kgほど体重は減りました。
当時Twitterに #間欠断食 のハッシュタグをつけて記録していたのですが、読み返すと「これ結果的に糖質が制限されたので好転しただけだ…」と判断できる記述も。

↓このあたりがまさにそうで、糖質制限中に驚いたことでもあります。口内環境は糖質の摂取量と関係があるようです。


 

断食は、何が問題なのか

3日食べなきゃ、7割治る!』 (船瀬俊介/三五館)や、『奇跡が起こる半日断食―朝食抜きで、高血圧、糖尿病、肝炎、腎炎、アトピー、リウマチがぞくぞく治っている! 』(甲田光雄/マキノ出版)など、「断食は、ものすごい効果がある!」と謳った本は山のように出ています。『簡単に痩せるのに、なぜファスティングをしないのですか?』(猪瀬悠希/宝島社)なんて扇情的なタイトルをつけている本もあります。
正しい手順で行う断食は美容にも健康にもいい。それが世間のイメージなのではないでしょうか。

しかし、様々な断食を行った結果私が感じているのは、「断食ではたいして痩せられない」ということです。


そして効果があるのは、落ちる筋肉がある初回~数回までだと思います。ゲームの中の初心者ボーナスみたいなもんです。
 
ちょうどタイムリーな新刊が出ていたので紹介したいのですが、『命を削る断食 断食の効果はステロイドのように一時的』(小西伸也)という本があります。
断食を含めた玄米菜食・小食などのオーガニックな食事を28年実践し、指導者でもあった人が、「断食は命を削るし、病への影響は一時的で治癒効果はない」と結論付けた衝撃的な本です。

詳しい内容はぜひ本を読んでみてほしいのですが、断食を行うことで深刻な質的栄養不足タンパク質不足+脂質不足+ビタミン不足+ミネラル不足)を生み、免疫力が低下し、老化が進む、といった内容が書かれています。

長年にわたって玄米菜食をしていたレイノー病という原因不明の病を患う女性が、たんぱく質の摂取で完治した例。そして、1か月間自家製青汁だけを飲んで過ごしていた著者の歯が欠け、爪が折れた例。断食・小食やオーガニックな食事がもたらす様々な体への影響が、実例とともに紹介されています。

 
また、私が断食にハマるきっかけになった「断食ハイ」(これは著者の造語です)についても書かれていますが、これが実に興味深い内容でした。

断食ハイとは一種の精神高揚状態のこと。
そう書くと魅力的に見えますが、「何も食べなくてもいいとさえ思うようになり、食べている人への嫌悪感が起きる」のだそうです。食べることに罪悪感を持ち、誘惑に負けて食事をしてしまった自分に罪の意識を持つようになります。自分を責め続け、過食断食が交互に繰り返されるようになります。
これは私にも心当たりがあり、私が様々なダイエットを試しては失敗するようになったのは、まさにこの2005年の断食がスタートでした。それまでは、ちゃんとしたダイエットすらしたことはなかったのです。

断食と過食を繰り返すと、人は自分に対して自信を失ってしまいます。自分が決めた断食さえ守れない、欲に弱い自分。そんな自信のなさが内に向かうと内向的になり、外に向かうと虚言傾向として出るのだそうです。

また、断食という極限状態の中で精神が不安定になるのは当然といえますが、特に深刻なのがセロトニン不足。幸せホルモンと呼ばれているセロトニンの材料はアミノ酸ですが、これが食事によって補給されないことで、鬱になったりネガティブな思考になり、さらには内臓の働きや代謝が下がってしまうのだそうです。

食べない、が食べられない、になる恐怖。断食から摂食障害に陥る人はまさにこのルートを歩んでいるわけで、私自身も近いところにいたと思うと改めてぞっとする思いです。
 

質的栄養失調の改善以外に、健康に痩せる道はない

様々な食材

「断食が危険」と書くと、判で押したように「バランスのいい食事が大事!」と繰り返す人がいます。
そんな人に限ってPFCバランスすら知らなかったりするのですが(Protein=たんぱく質、Fat=脂肪、Carbo=炭水化物で、厚生労働省の定める食事摂取基準によればP16.5:F25:C57.5の割合で摂るべきとされています)、その「バランスのいい食事」が本当に自分にとって栄養不足を補える食事かどうかは、しっかり疑うべきだと思います。
 
以前、糖質制限を行ってダイエットに成功した体験を、「まだ20代なのにシワが…! それって、毎日食べてるアレが原因かも⁉」という記事で書きましたが、私にとっての「バランスのいい食事」は和食でも玄米菜食でもなく、チーズや肉といった一見ジャンクなたんぱく質と脂肪たっぷりの食事でした。それを食べなければ、長期に亘って陥っていた質的栄養失調は改善できなかったのです。

断食やオーガニックな食事から糖質制限にシフトして健康を取り戻した人は、著者の小西氏や私の他にもネット上のいくつかのブログやSNSなどで見ることができます。
これに対して、「極端から極端へ行くだけ」と批判しているコメントもいくつか見ました。
しかし、カラカラに干からびた花には多めに水をあげるように、不足したものはそのマイナス分も含めて多めに補給しないと、プラスには転じないのです。

断食で痩せた経験がある人、PFCバランスが崩れた食事を長年続けてきた人は、まずは自分に足りない栄養素を探るところから始めましょう。日本人の食事は極端にたんぱく質が足りていないことが多いので、大抵の場合高たんぱくの食事で改善できるはずです。また、女性の99%が鉄分不足とも言われていて、食事からの摂取ではなかなか難しいといわれています。極力、サプリメントなどで補うようにしたいものです。

 
蛇足ですが、前述のヒモ男には総額60万ほど渡し、別れ際に借用書を書かせて数年かけてちょっとずつ返済してもらいました。すべての返済が終わったときはむなしさしか残らなかったわけですが、不足したものはマイナス分を含めて多めに補給しないとプラスには転じないんだなぁと、ここでも思った次第です。

坂野 りんこ

Lily-Jay編集&ライター。頑張っていない方のアラフォー先輩。気が付いたらライター歴15年以上。Lily-Jayにはこの春から編集として参加しています。 成人女性として生きてきた約20年の間にサボりまくったツケを取り戻すべく、記事を通して一緒に成長していきたいところです。 ライターのほか、書籍の編集者、イラストレーター、漫画家としての顔もあります。 著書は『新感覚ごがくしょ 笑ってイタリア語マスターちゃおイタ』『江戸ちえ』(中経出版)。

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